クロスエデュケーションとは
クロスエデュケーションとは、一側の筋力トレーニングや技能的な練習の効果が、トレーニングを行っていない反対側にも転移する現象を指します。この効果は、contralateral effectとも呼ばれています。
主な特徴
- 片側トレーニングの効果: 片方の腕や脚を鍛えるだけで、反対側の筋力も向上します。また、片側のトレーニングによって反対側の運動誘発性の筋ダメージを抑制する可能性もあるという意見もあります。
- 適用範囲: 健康な人だけでなく、脳卒中患者や骨折でギプスを使用している人など、様々な状況で応用が可能です。
- 精神的負担の軽減: 麻痺のある部位を直接トレーニングする訓練と比べ、健康な側をトレーニングするため、できない→できるに意識をシフトさせ、精神的負担軽減につながります。
メカニズム
クロスエデュケーションのメカニズムについては、主に以下の仮説が考えられています:
- Bilateral-access仮説: 一側の動作学習で形成される記憶の痕跡(エングラム)に、反対側の皮質領域もアクセスできるという考え方です。具体的には、右側の身体部位を動かす場合、主に左側の脳の一次運動野が活性化します。この活動によって左側の大脳皮質にエングラムが形成されます。右側の大脳皮質もこのエングラムにアクセスできるため、左側の身体部位の動きにも効果が転移します。この仮説は、運動学習だけでなく、筋力増強の転移にも適用できる可能性があります。簡単に言うとトレーニングした側の効果が脳・神経系を介して反対側へもトレーニング効果を及ぼすということです。
- 神経系の適応: 脳・神経系と筋肉の間に新たな連携が構築されることで効果が生じると考えられています。
- 脊髄レベルの影響: 脊髄レベルでの神経活動の変化も関与している可能性がありますが、その影響は比較的小さいとされています。
効果的なトレーニング方法
- エキセントリックトレーニング: ダンベルをゆっくり降ろすような伸張性収縮を用いたトレーニングが、クロスエデュケーション効果を高めるのに効果的です。
- 筋肉が伸びた位置でのトレーニング: 筋肉が伸びた状態でのトレーニングは、筋力増加と筋肥大効果が大きく、クロスエデュケーション効果も高いことが示されています。
応用分野
- リハビリテーション: 脳卒中による片麻痺患者のリハビリに特に有効です。
- スポーツトレーニング: 怪我で片側の使用が制限される場合に活用できます。
- 介護予防: 高齢者の筋力維持・向上に応用できる可能性があります。
まとめ
クロスエデュケーション効果は、従来のトレーニング方法を補完する新たなアプローチとして、今後さらなる研究と応用が期待されています。上記のでは主に脳や神経系を介して反対側へ影響が及ぶことを解説しましたが、体幹を通した運動連鎖の観点からも片側のトレーニングが両側へ影響するということが言えます。左右バランスよく鍛えることは大事ですが、環境が変わったとき、故障したときなど状況に応じて柔軟な対応ができるようにクロスエデュケーション効果等も知識として持っておいて、応用できるようにしておけばより良いトレーニングにつながるかもしれません。