結論から言うと、コンプレフロスはコンディショニングにすごく便利だと思います。関節を圧迫して動かすことは、普段意識しにくい関節周囲の深部感覚がより刺激され、神経回路を通して学習することで勝手にコンディションが整うというイメージです。
ということで、圧迫の強度は説明書通りに強くしなくても、適度にしめつけられているかなーくらいで不快になりすぎない強度で効果は得られます。逆に不適切な強い圧迫や長時間の圧迫で血流を制限しすぎるデメリットの方がリスクがあるため、時間は1部位2分以内、やりすぎないことを心がける必要があります。
以下、コンプレフロスの原理・圧迫刺激による効果について掘り下げていきたいと思います。
コンプレフロスは、筋膜リリースを目的としたツールで、圧迫と運動を組み合わせて使用します。筋膜は、筋肉、皮膚、骨、神経、血管などを繋ぐコラーゲンと水を主成分とする組織です。コンプレフロスは、この筋膜に圧迫を加えることで一過性の虚血を引き起こし、一酸化窒素の濃度を上げて血管を拡張し、血液循環を改善します。そのことで以下の効果があると言われています。
使用方法:適切な圧力(150mmHg未満、バンドを約1.5倍に伸ばす程度)で使用。使用時間は2分以内に限定し、2〜3セット(最大5セット)にとどめる。
- 可動域の増加
- 動作時の違和感の緩和
- 疼痛抑制
- 循環改善
- DOMS(筋肉の痛み)改善
コンプレフロスに関する研究エビデンス
可動域(ROM)への効果
研究では、コンプレフロスの使用後に足関節背屈や股関節屈曲などの関節可動域が増加することが報告されています。レビュー論文によると、29の可動域測定値のうち15の結果でフロスバンド介入後に有意な増加が見られました。ただし、そのメカニズムはまだ完全には解明されておらず、長期的効果についてはさらなる研究が必要とされています。
パフォーマンスへの影響
いくつかの研究では、コンプレフロスがジャンプ力などの機能改善をもたらすことが報告されています。対象部位によってはパフォーマンス向上が期待できますが、効果量は比較的小さいとされています。
痛みや筋肉痛(DOMS)への効果
コンプレフロスは、主観的な痛みの感覚改善や遅発性筋肉痛(DOMS)の軽減に効果があると報告されています。痛みや筋機能を改善する可能性が示唆されていますが、一般化できるだけの十分な知見はまだ集まっていません。
実際に使ってみて
私も実際に足関節・膝関節に使ってみて、その後に動きが軽くなった感じがします。ただ、どのくらい圧迫を加えるか、どのくらい時間をかけるとデメリット小さく効果を引き出せるのかは個人に合わせて考えたほうがいいと感じました。
原理の応用、他の方法での代用もできる?
これまでの経験から、コンプレフロスに限らずバンドを巻いて関節に圧迫刺激を加えながら運動することで強く圧迫をかけなくても同様の効果を得られる印象があります。そのことには深部感覚が関連しており、以下の原理で説明されます。
深部感覚と固有受容感覚の基礎、圧迫で関節周囲の深部感覚を刺激
深部感覚は、骨膜・筋・腱・関節・靱帯に対する接触刺激またはその運動から生じる感覚であり、位置覚(関節の角度の認識)、運動覚(運動の方向の認識)、圧覚(圧迫を感じる感覚)、振動覚(骨に伝わる振動)などが含まれます。これらの感覚は姿勢制御や運動の円滑な実行に不可欠であり、深部感覚が障害されると、関節位置や運動方向、筋出力の程度などの知覚が困難になります。
プロプリオセプション(固有受容感覚)は、特に動きを駆動するメッセージとして機能し、関節包内のプロプリオセプター(固有受容器)が関節の位置情報を神経系に伝達することで、動きのコントロールを可能にしています。

圧迫刺激の神経生理学的効果
感覚受容器への直接的影響
バンドによる圧迫は、皮膚や深部組織に存在する様々な機械受容器を刺激します。Meissner小体やPacini小体などの機械受容器は、それぞれ特定の種類の感覚(ビリビリ感やジンジン感など)を伝達する大径有髄線維(Aβ線維)に接続しています。圧迫による機械的刺激がこれらの受容器を活性化することで、中枢神経系への感覚入力が増加し、運動制御の精度向上につながる可能性があります。
筋膜における感覚受容密度
研究によれば、筋膜には筋肉の10倍の感覚神経が存在し、その多くが小神経と自由神経終末であることが示されています。これは圧迫刺激が筋膜を介して多量の感覚情報を神経系に送る可能性を示唆しています。さらに、筋膜の緊張によって動きや関節の位置感覚がより明確に認識できるようになるとされています。
Ib抑制メカニズム
圧迫が脊髄運動神経興奮性に与える影響も重要です。研究では、圧迫が脊髄運動神経興奮性を低下させることが報告されており、そのメカニズムは持続的伸張と同様にIb抑制(ゴルジ腱器官からの抑制性入力)によるものと考えられています。頚髄損傷患者を対象とした研究では、弾性包帯やサポーターによる圧迫で筋の持続的伸張が可能になり、痙縮が抑制された状態での随意運動が改善したことが示されています。
軽度圧迫の効果
完全な虚血に至らない軽度の圧迫でも効果が得られる理由として、以下のメカニズムが考えられます:
- 感覚閾値の変化: 圧迫により皮膚や深部組織の感覚受容器の感度が一時的に変化し、普段よりも低い閾値で刺激に反応するようになる可能性があります。
- 筋膜と小神経の関係: 軽度の圧迫でも、感覚神経が密集する筋膜の小神経を効果的に刺激することができます。小神経は大神経より反応速度が速いため、わずかな圧迫でも運動制御に有意な影響を与える可能性があります。
- 感覚ゲーティング機構の変調: 随意運動中は体性感覚誘発電位(SEP)の振幅が低下する「ゲーティング」と呼ばれる現象が起こりますが、圧迫刺激がこのゲーティング機構に影響を与え、感覚情報処理を最適化する可能性があります。
軽度圧迫と虚血の関係
完全な虚血が起こらなくても効果が得られる理由として、虚血と神経活動の関係も重要です。「正座の後のしびれ」の例では、虚血による感覚神経線維の伝導ブロックで感覚鈍麻が主体となり、虚血解除後に血流回復による軸索興奮性変化から様々な異常感覚が生じることが知られています。
軽度の圧迫では完全な虚血には至らないものの、微小循環の変化や組織内の酸素分圧の軽度低下が起こり、これが感覚受容器の活動性に影響を与える可能性があります。さらに、虚血に至らない程度の圧迫でも、組織内の機械的変形が生じ、これが機械受容器を刺激することで深部感覚の入力を増加させる可能性があります。
臨床応用例とエビデンス
実際の臨床では、コンプレフロスやフロッシングバンドなど、圧迫を利用した治療法が関節機能改善に活用されています。また、リハビリテーション分野では、プロプリオセプティブ・トレーニングとして、不安定な足場でのバランス練習だけでなく、筋膜の小神経を刺激するための裸足でのトレーニングなども推奨されています。
筋の圧迫による痙縮抑制効果の研究では、圧迫により筋緊張が低下し、随意運動の改善が見られたことが報告されています。この効果は、完全な虚血を引き起こすほどの強い圧迫ではなく、適度な強度(30~40mmHg程度)の圧迫で得られています。
結論
バンドによる圧迫刺激が深部感覚を活性化し、関節運動の質を向上させる現象は、科学的に説明可能です。完全な虚血に至らない程度の圧迫でも、機械受容器の刺激、筋膜の小神経の活性化、Ib抑制メカニズム、感覚ゲーティング機構の変調など、複数の神経生理学的メカニズムが関与していると考えられます。
ただし、圧迫の強度や時間に関しては個人差があり、過度の圧迫は虚血や神経障害につながる可能性があるため、適切な強度での使用が推奨されます。また、バンドによる圧迫療法の効果に関する研究はまだ発展途上であり、さらなるエビデンスの蓄積が必要です。
実践においては、圧迫感を感じる程度で、不快感や痛みがない範囲の圧迫強度が適切であり、その状態で関節運動を行うことで、深部感覚への刺激効果が期待できると考えられます。