前十字靭帯損傷に対する運動療法〜ピラティスの応用

前十字靭帯(ACL)損傷は、膝関節の主要な靭帯損傷の一つであり、日常生活やスポーツ活動に支障をきたす可能性があります。ACL損傷は、外力による急激な動作や、着地時の衝撃などが原因で起こることが多いですが、以下のような背景もリスクを高める要因となります。

1. 筋力バランスの悪化

大腿四頭筋の方がハムストリングスよりも強いと、膝関節の前方への動きが大きくなり、ACL損傷のリスクが高くなります。

内転筋群が弱い場合、膝関節が外側に開きやすくなり、ACL損傷のリスクが高くなります。

2. 体幹の弱さ

バランスを崩しやすくなり、転倒や膝への衝撃を受けやすくなります。

3. 柔軟性の低下

膝関節の可動域が制限され、ACL損傷のリスクが高くなります。

4. 身体の使い方の悪さ

回転運動、ジャンプやランニングなどの動作を間違ったフォームで行うと、膝に負担がかかり、ACL損傷のリスクが高くなります。

6. 性別

女性は男性よりもACL損傷のリスクが高いことが知られています。これは、女性の方が骨盤が広く、膝関節が外側に開きやすいことなどが原因と考えられています。

7. 年齢

10代後半から20代前半は、成長ホルモンの影響で骨や筋肉が急速に成長する時期です。一方、靭帯や腱などの軟組織は、骨や筋肉ほど急速には成長しません。そのため、この年齢層は筋力や柔軟性のバランスが崩れやすく、前十字靭帯損傷のリスクが高くなります。

しかし、前十字靭帯損傷はあらゆる年齢で起こりえます。(10歳未満: 約5%、10代: 約30%、20代: 約40%、30代: 約15%、40代以降: 約10%)

8. 疲労

疲労が溜まっている状態では、集中力が低下し、怪我のリスクが高くなります。

9. 睡眠不足

睡眠不足は、筋力や柔軟性、集中力などの低下を招き、怪我のリスクを高めます。

原因となる動作、アライメント

受傷起点は図のニーイントゥーアウトが原因として有名です。

予防するには体幹を安定させた状態で下半身を動かす能力、不適切なアライメントにならないように可動域を維持することが重要です。

ピラティスを通して股関節外旋筋や内転筋の筋力強化、関連する体幹筋力、適切な姿勢を維持するバランス能力、集中力の強化を鍛えることができます。

以下のエクササイズは故障した足に体重をかけないで行えるエクササイズ例です。

サイドヒップラウンド:3面上で体幹安定しながら股関節の可動性UP

サイドキック:前後のバランスを維持しながら股関節の可動性UP

トランクツイスト:体側部・内転筋筋力強化

レッグサークル:臀筋群のモビリティ、臀部〜下肢側面のストレッチ

スイミング:上肢と下肢の連動性、臀筋群の筋持久力強化

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