前庭機能(バランス・姿勢・眼球運動)に対するリハビリ

前庭機能は、体のバランスを取るための大切な仕組みです。内耳という耳の奥の部分にある小さなセンサーが、頭が動いたり傾いたりするとそれを感じ取ります。この情報を脳に送ることで、私たちはまっすぐ立ったり、走ったり、目で物を追いかけたりすることができます。つまり、前庭機能があるおかげで、転ばずに歩いたり、スポーツを楽しんだりできます。

今回は前庭機能に対するリハビリをまとめました。

米国理学療法士協会ガイドライン 2022 年の更新では,前庭機能低下により,めまい・ふらつきおよび視線や歩行の不安定性,空間における姿勢制御の障害を起こし,個人の生活の質,日常生活,運転さらに仕事に悪影響を及ぼす可能性があると記載しており,プログラムは以下の①②③を中心に行います。

① Gaze Stability Exercises:

めまいや平衡感覚の問題に対して効果的です。バランス機能の向上や姿勢制御の改善に効果があることが示されています

前庭動眼反射ゲインの回復(頭部運動や素早い眼球運動により網膜上で retinal slip が引き起こされることで小脳や前庭神経核で適応が起こり、retinal slip を減少させる。)前庭機能が低下した場合には前庭機能が回復しなくても,中枢前庭系の機能代償により前庭小脳が亢進した健側の前庭神経核を強く抑制します(前庭代償)。

目的:姿勢・バランス改善、頭頚部の協調性向上、眼球運動と頭部運動の連携の改善

具体的な方法:

立位姿勢で眼前のターゲット(文字や物体)を注視、頭部を動かしながら、ターゲットを見続けながら頭部と逆方向に、同じ速度で眼球を動かす。

バリエーション:目だけを動かす、頭を動かす、手を動かす

GSEの効果については、複数の研究で検証されています:

脳卒中患者に対する研究では、GSEを実施したグループがバランス能力、歩行能力、麻痺側の立脚時間、立脚時間の非対称性の改善を示しました

健常者を対象とした研究でも、GSEにより頭頚部回旋時の重心動揺が減少することが確認されています

橋梗塞後の患者に対しても、GSEが静的立位や歩行の姿勢制御に即時的な改善をもたらすことが報告されています

参考動画:https://youtu.be/RzPjESAVWfk?si=8oAscJzWH746L5XR


② Habituation Exercises

前庭系の損傷や機能低下により生じる不快な症状(例:めまい)を軽減するために、脳を特定の刺激に慣れさせることを目指します。これにより、動作に伴う不快感やバランスの問題を減少させることができます。長期的な神経系の変化を引き起こし、動作に伴う症状の軽減に寄与します。研究によれば、これらのエクササイズは症状の持続的な改善をもたらすことが示されています。

この運動は長期的な神経系の変化を引き起こし、動作に伴う症状の軽減に寄与します。研究によれば、これらのエクササイズは症状の持続的な改善をもたらすことが示されています

適応症:一側性前庭機能低下(例:前庭神経炎、ラビリンス炎、メニエール病の進行期)、軽度の脳震盪後のめまい、良性発作性頭位めまい症(BPPV)、持続性姿勢知覚めまい(PPPD)

具体的な方法:

頭部運動:座った状態で、頭を左右に大きく素早く回転させる。これを5回繰り返し、3セット行う。

体幹運動:座った状態で、体幹を前後に大きく素早く屈伸させる。これを5回繰り返し、3セット行う。

立位運動:立った状態で、頭を左右に大きく素早く回転させる。これを5回繰り返し、3セット行う


注意点:エクササイズは、症状が中等度(10段階中4~6)になるまで行い、その後症状が落ち着くまで休みましょう。エクササイズを行う際には、症状が軽減するまで継続的に行うことが推奨されます。急性のめまいや再発性のめまい発作がある場合には、これらのエクササイズは適さないことがあります。

参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=DVR98Xb9atM&t=243s

③ Substitution Exercises

サッケード・追視などの視覚機能,頭部より先に眼球を動かす予測機能,頸椎の固有感覚や足底の体性感覚情報を利用することによる前庭機能の代償を促します。

目的:視覚や体性感覚の手がかりを最大限に活用する。中枢のプレプログラミングを向上させる。頭部が動いている際の視覚の安定性を維持する

適用対象:一側性前庭機能低下、両側性前庭機能低下

運動の例

仮想ターゲット運動:目を閉じて頭を回転させながら、特定のターゲットに焦点を合わせ続けることを想像する

アクティブな目と頭の動き:2つの物体間で目と頭を交互に動かす

座位や立位での肩のシュラッグや回転

物を拾う動作

目を開けたり閉じたりしながら座位から立位への変更

効果:姿勢と歩行の安定性の改善、全体的なバランスの向上

Substitution Exercisesは、前庭機能の低下や喪失に対して代替戦略を促進し、バランスと姿勢の安定性を改善するための効果的な方法です。

参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=HEOyZ04eYUQ&t=4s

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