沖縄県の伝統的な踊り「カチャーシー」。お祝いの席やエイサーの後に踊られる踊りは、実はリハビリテーションの現場でも役立つ経験をしたのでシェアします。 錐体外路(すいたいがいろ)機能は勉強すると病気だけではなく運動パフォーマンスアップにも繋がります。今回はパーキンソン症候群に対するリハビリテーションという視点で取り入れたいと思います。
錐体外路機能とは?
錐体外路系の基本的な役割
錐体外路系は、私たちの体の動きを滑らかで協調的にする「裏方」のような存在です。脳内の運動制御に関わる重要な神経回路で、身体の動きや姿勢、バランスを調整する役割を担っています。この機能が低下すると、運動のタイミングやスムーズな動作が難しくなり、動作がぎこちなくなることがあります。
錐体外路系の具体的な機能
- 姿勢の維持: 立っているときや座っているときに、意識せずに姿勢を保つことができる。
- スムーズな動き: コップを取ろうとするとき、手をスムーズに動かせる。
- 自動化された動作: 歩くときや自転車に乗るときなど、一度覚えると意識せずにできる。
- 感情表現のサポート: 笑顔や驚いた表情など、自然な表情の表出を助ける。
錐体外路系の障害:パーキンソン病、パーキンソン症候群など
錐体外路系に問題が生じると、以下のような症状が現れることがあります:
- 震え(振戦): コップを持つ手が震えるなど。
- 動作の遅さ: 体の動きが全体的にゆっくりになる。
- 筋肉の硬直: 体の筋肉が固くなり、動きにくくなる。
- バランスの悪さ: 転びやすくなる。歩行が小刻みで方向転換が苦手になる。
錐体外路系は、私たちの日常生活で意識せずに行っている多くの動作を支える重要な役割を果たしています。この系統が正常に機能することで、私たちは滑らかで自然な動きを行うことができます。
このような症状は、意識的に動こうとすると余計に難しくなる一方で、音楽やリズムに合わせるとスムーズに動ける場合があります。
カチャーシーと錐体外路機能の関係
私が担当する患者さんの中に、錐体外路機能障害の兆候があり、意欲が低下しリハビリにも消極的な方がいらっしゃいました。通常の指示では手放しで立つことが難しい状態でしたが、「カチャーシーを踊ってみましょう」と声をかけると、手を離して起立し、踊りの動きをすることができました!
この現象は、音楽やリズムが錐体外路系を刺激し、運動機能を補助した結果だと考えられます。音楽が脳に与える効果についての研究では、次のようなメカニズムが解明されています:
- リズムが動作を誘導する
リズムは脳の運動制御ネットワークを刺激し、スムーズな動きを引き出します。カチャーシーのリズムは、自然に体が動きやすくなるきっかけを与えてくれます。 - 情動を活性化し意欲を向上させる
沖縄の高齢者にとってカチャーシーは楽しい思い出と結びついていることが多く、音楽が情動を活性化させてリハビリへの抵抗感を和らげます。 - 神経回路の再活性化
錐体外路系が音楽やリズムに反応し、新しい神経回路を形成する可能性があります。これを神経可塑性といい、運動機能の改善に繋がると考えられます。
カチャーシーをリハビリに取り入れるポイント
カチャーシーのような馴染みのある動きをリハビリに取り入れるときは、以下のポイントを意識すると効果的です:
- 個々の状態に合わせた調整
動作が難しい場合は、座った状態で手だけを動かすなど、無理のない範囲から始めましょう。 - 適切なリズムを選ぶ
高齢者にとって馴染みのある音楽やリズムを使用すると、より効果的に働きかけられます。必ずしも音楽がなくても手拍子や合図だけでも効果はあります。 - 安全を確保しながら楽しむ
転倒などのリスクを避けるため、周囲を整えつつ、踊りそのものを楽しめる雰囲気を作ることが大切です。
錐体外路機能障害への新しいアプローチ
高齢になればなるほど新しい動きを覚えることは難しいですが、馴染みのある動きは反応が良い印象があります。カチャーシーは沖縄県民なら誰でも動きを知っている分リハビリの中でも取り入れやすく、錐体外路系の機能障害を抱える高齢者に対するアプローチで効果的と思いました。
まとめ
音楽やリズムが身体と心に与える影響は科学的にも裏付けられていますが、リハビリテーションの現場でもそれを実感しました。カチャーシーは単なる踊りではなく、高齢者の健康を支える可能性を秘めた素晴らしい手段だと思いました。